東京高等裁判所 昭和33年(ネ)835号・昭33年(ネ)798号 判決
一、賃料を期日に支払わないときは賃貸人は催告を要せずして賃貸借を解除しうるという特約は、本来賃料の支払を確保し賃貸借の円満な長期継続を図るものであるから、賃借人が一ケ月の賃料でも期日に支払わないことがあれば、それだけで賃貸人は当然にその翌日直ちに賃貸借を解除し得るというような趣旨のものではなく、賃料の支払が約定の期日に行われず、これがため当事者間の衡平や信義則などから考えて賃貸借を長期に亘り円満に継続することが到底期待できないような状態を生じたものと解せられる場合に限り、賃貸人は催告を要せずして賃貸借を解除しうる趣旨の特約であると解するのが相当である。
二、そして、右のように控訴人須賀は被控訴人及びその前主父亀太郎において賃料の受領を拒まないのに、従来の約定賃料では受領しないものと速断し弁済の提供をすることなく供託の方法に出たのは早計であつて更に交渉してこの点を確かめるべきであつたのであるが、それよりも一方、賃貸人側において公定額以上の値上げを要求したのは明らかに不当であるし、このような値上げの交渉の際には借地人側では公定賃料では受領して貰えないであろうと考えることはありうることであるから、賃貸人はこのことを予想し約定賃料や公定賃料でも持参すれば受け取るということを借地人に表明すべきである。公定賃料以上の値上げを要求しながら正当な賃料を持参しないからといつてそのまま供託を継続させておくのは賃貸人側においても借地関係を円満に継続して行く上に信義則に欠けたところがある。本件では借地人が賃貸人において賃料を受領しないものと誤解し弁済の提供をせずに供託したという過失よりは、賃貸人において公定額以上の賃料の値上げを要求したことが本件紛争を起した重大な根源であるから、賃貸人側の右信義違反の方が重視されなければならない。従つて本件では右の当事者双方の事情から考え控訴人須賀が被控訴人または前主亀太郎において賃料を受領しないものと考え弁済の提供をすることなくして供託したのは、供託としては適法ではないが、特約に基く即時解除によつて借地関係を終了させ、借地人において借地権と借地上の建物とを失うに値するほどの信義則に違反したものではないから、前記の特約による解除権は成立しないものといわなければならない。
(簿根 村木 元岡)